ADHD(注意欠如・多動症)を持つ方にとって、日本の会社組織で働くことには独特の困難があります。研究開発職で朝から晩まで同じ場所に籠もって作業を続けることに耐えられず、ストレスで体調を崩してしまう。営業職では人とのコミュニケーションは得意なのに、細かい事務作業でつまずいてしまう。転職を繰り返しても、なかなか自分に合った仕事が見つからない。
こうした経験に覚えのある方は少なくないでしょう。しかし、会社員として「うまくいかない」ことは、決してあなたの能力が低いことを意味しません。むしろ、起業という道においては、その特性が大きな強みになる可能性があるのです。
目次
なぜADHD当事者は会社員が難しいのか
ある28歳の男性は、研究開発職に就いていました。医師からは「あなたには一番向いていない仕事」と言われたそうです。同じ場所で同じ作業を延々と続けることが、ADHD特性を持つ彼にとって最も苦手なことだったのです。
彼は以前、営業職をしていました。営業そのものは好きではなかったものの、人とコミュニケーションを取ることは嫌いではありませんでした。しかし、研究開発職では人とのコミュニケーションがほとんどなく、それがまた別のストレスとなっていました。
このように、ADHD当事者の多くは「集団の中で異物のように感じる」という経験を持っています。コミュニケーションは普通に取れるのに、心を開けない自分がいる。人間は好きなのに嫌いという矛盾した感情を抱えている。そんな葛藤を日々感じているのです。
転職を繰り返しても見つからない「適職」
多くのADHD当事者が抱える悩みの一つが、自分に本当に向いている仕事がわからないということです。就職や転職を繰り返しても、なかなか見つからない。試行錯誤を続けても、未だに見つかっていない。そんな状況に陥っている方は少なくありません。
なぜ適職が見つからないのでしょうか。それは、会社という枠組みの中では、ADHD特性を持つ人の強みが十分に活かせないからです。会社は平均的に何でもできる人を求めます。ある方向には驚くほどの才能があるのに、別の方向が全くできないからという理由で評価されない。電話対応ができないだけで居場所を失ってしまう。そんな現実があります。
しかし、起業という選択肢を取れば、状況は一変します。弱みに目を向けるのではなく、尖った部分を徹底的に伸ばすことができるからです。
ADHD当事者が起業に向いている理由
実は、ネットビジネスで成功している人の75パーセントがADDだという調査結果があります。これはGoogleやYahooのコンサルティングを手がける、ネットマーケティング業界の第一人者リッチ・シェフレン氏が、自身がコーチングしてきた何百人もの成功者を分析して導き出した数字です。
なぜADHD当事者は起業、特にネットビジネスで成功しやすいのでしょうか。
まず、起業においては会社員時代の「欠点」が武器になります。会社では「変わった人」として扱われがちですが、起業の世界では変わっているポイントこそが差別化になります。普通の人には真似できない独自性こそが、顧客を惹きつける要素になるのです。
次に、完璧主義を求められないという点です。会社では100パーセントの完成度が求められますが、起業では60から80パーセントの完成度でもまず市場に出してみることが重要です。完璧を目指して何もリリースしないより、不完全でも行動を起こす方が成功に近づきます。これはまさにADHD特性の「衝動性」が活きる場面です。
さらに、計画よりも行動が重視されます。細かい計画を立てるのが苦手でも、大まかな方向性さえあれば、あとは走りながら考えることができます。予測不可能な変化にも柔軟に対応できる適応力も、ADHD当事者の強みです。
起業で変わる日常生活
実際に起業すると、生活はどのように変わるのでしょうか。ある起業家の一日を見てみましょう。
朝は9時頃に起床し、アイデア出しから始めます。新しいことを毎日考え、新規事業の構想を練ります。昼からはコンサルティングや相談会。そして重要なのが、昼寝の時間を確保していることです。眠いと生産性が落ちるため、無理せず休憩を取ります。
夕方からは趣味の時間。読書をしたり、やりたいことを中心に生活を組み立てています。そして夜、また仕事に戻ります。このように、自分のリズムに合わせて一日を設計できるのが起業の大きなメリットです。
場所も自由です。自宅で集中して作業することもあれば、カフェに移動することもあります。特に自然の中で仕事をすると、壁のない開放的な環境でアイデアが湧きやすくなります。電車の中でブログを書くこともあります。揺れる環境が脳を刺激し、創造性を高めるからです。
重要なのは、仕事が「真剣な遊び」や「ゲーム」のように感じられることです。例えば、メルマガを配信してどれだけの反応があるかを予測し、結果を見る。予想通りなら嬉しいし、予想外なら次の戦略を考える。こうしたゲーム感覚で取り組めると、飽きることなく継続できます。
なぜ多くの人が起業に失敗するのか
しかし、起業したいと思っていても、なかなか実行に移せない人は多くいます。その最大の理由は「情報がありすぎて何をすればいいかわからなくなる」ことです。
起業に関する本を読み、セミナーに参加し、オンライン講座を受講する。しかし、それぞれが異なることを言っているように感じ、結局どれが正しいのかわからなくなってしまう。これが典型的な「ノウハウコレクター」の状態です。
特にADHD当事者の場合、次から次へと新しい情報に興味が移ってしまい、一つのことを最後までやり遂げることが難しくなります。目標があっても、そこに到達するための計画が立てられない。やるべきことが多すぎて、何から手をつければいいかわからなくなる。そして結局、何も進まないまま時間だけが過ぎていく。
ある起業コンサルタントは、1000万円以上を自己投資に費やしたにもかかわらず、何の成果も出せなかった時期があったと語っています。知識はたくさんあるのに、実際には何もできない。この状態から抜け出すには、ある重要な要素が必要でした。
成功の鍵は「メンター」と「仲間」
情報過多の状態から抜け出し、実際に結果を出すために最も重要なのは、信頼できるメンターに付くことです。
一人で色々な情報を集めて試行錯誤するのではなく、まずは一人の指導者から一通りのことを学ぶ。そして、その人の言う通りに実行してみる。これが最も早く結果を出す方法です。
なぜメンターが重要なのでしょうか。一つ目の理由は、ADHD当事者は気が散りやすいからです。一人でやっていると、すぐに「こっちの方がいいんじゃないか」と別の方法に目移りしてしまいます。しかし、メンターがいれば「それはズレていませんか」と軌道修正してもらえます。そして、すぐに本来の道に戻ることができます。
二つ目の理由は、指示された通りにできないADHD特性を理解してもらえることです。多くの起業塾では、課題を出されてもその通りにできないと責められます。しかし、ADHD当事者向けの指導では、できない理由を一緒に考え、その人に合った方法を見つけていきます。
三つ目の理由は、マインドセットの重要性です。起業で成功するには、会社員的な考え方から企業家的な考え方に変える必要があります。これは知識ではなく、実践を通じて身につけていくものです。メンターがいれば、つまずいた時に適切なマインドセットを教えてもらえます。
そして、仲間の存在も重要です。同じようにADHD特性を持ち、起業を目指す仲間がいることで、孤独感が和らぎます。自分だけが苦しんでいるのではないと知ることで、継続する力が湧いてきます。
起業アイデアの見つけ方
では、実際にどのようなビジネスを始めればいいのでしょうか。ADHD当事者ならではのアイデアをいくつか見てみましょう。
就労支援を超えたヘッドハンティングサービス
ある起業希望者は、発達障害者向けのヘッドハンティングサイトというアイデアを持っていました。従来のヘッドハンティングは、仕事ができる健常者を対象としています。しかし、ADHD当事者には尖った能力があります。ある分野では驚異的な才能を発揮するのに、別の分野が苦手というだけで評価されない。
そこで、弱みではなく尖った能力を求める企業と、そうした人材をマッチングするサービスです。従来の就労支援は、企業に馴染めるように訓練する場所という側面があります。電話の取り方を学び、一般的な会社員として振る舞えるようにする。しかし、それは本当に必要なことでしょうか。
むしろ、その人の強みを活かせる環境を見つけることの方が重要ではないでしょうか。このアイデアは理想的ですが、現状では市場がまだ成熟していないという課題もあります。
複数の職場体験を通じた適職探しサービス
もう一つのアイデアは、様々な職場を短期間ずつ経験できるサービスです。海外には「1週間仕事プロジェクト」というものがあり、1年間で52種類の仕事を1週間ずつ体験するという取り組みがあります。
多くの人、特にADHD当事者は、自分に本当に向いている仕事がわからないまま就職や転職を繰り返しています。しかし、実際に様々な職場を経験することで、自分が没頭できる仕事、続けられる仕事が見えてくるのではないか。そうした仮説に基づくサービスです。
ただし、このアイデアにも課題があります。様々な企業に協力してもらう必要があり、営業体制を構築しなければなりません。また、収益モデルをどう設計するかという問題もあります。
最初の一歩:小さく始めることの重要性
起業アイデアを考える時、多くの人は大きなビジョンを描きます。しかし、最初から大規模に始めようとすると、かえって失敗のリスクが高まります。
例えば、パトロンを見つけて資金提供を受ける、あるいは大きな投資を受けてスタートアップを立ち上げる。こうした方法は一見魅力的ですが、ADHD当事者には向いていません。なぜなら、資金提供者の意向に従わなければならず、結局は会社員と同じような立場になってしまうからです。
むしろ、お金をかけずにできる範囲で始めることが重要です。スモールスタートで成功している起業家のほとんどが、少額の投資から始めています。小さく始めれば、失敗してもダメージは小さい。そして、自分の好きなようにビジネスを展開できます。
特に休職中の方は、今が絶好のチャンスです。会社に勤めながら起業活動をするよりも、時間がたっぷりある休職期間に集中して取り組む方が、結果が出やすいのです。実際に、休職中に起業活動を始めて成功した事例は多くあります。
毎日2時間の積み重ねが人生を変える
起業活動で最も重要なのは、毎日継続することです。しかし、ここで多くの人が間違った方法を取ってしまいます。
よくあるのが「土日にまとめてやります」「連休に集中して取り組みます」というパターンです。しかし、これは脳科学的に見ると逆効果なのです。
人間の脳には「仮想」と「安定」という二大特性があります。脳は基本的に変化を嫌い、現状維持を好みます。そのため、週末に集中して長時間作業をすると、脳が「これは普段と違う、危険だ」と判断し、安定化機能が働きます。その結果、週末に頑張った後、1ヶ月近く全く行動できなくなるということが起こります。
一方、毎日2時間程度の作業であれば、脳に気づかれないレベルの変化です。脳の仮想特性が「ちょっとした違いならOK」と判断し、習慣として定着していきます。これが継続の秘訣です。
特に休職中の方は、毎日2時間以上の作業時間を確保することを強くお勧めします。たとえ何も進まない日があっても、その時間を起業活動に充てる習慣をつけることが重要です。この習慣が、将来の成功を左右します。
ファーストキャッシュの重要性
起業で最も重要なマイルストーンは「ファーストキャッシュ」、つまり初めてお金をいただくことです。これはビジネスの成否を決める分岐点と言っても過言ではありません。
なぜファーストキャッシュがそれほど重要なのでしょうか。それは、お金をいただくという体験がマインドを劇的に変えるからです。
知識だけを学んでいる段階では、起業は頭の中の概念に過ぎません。しかし、実際に顧客からお金をいただいた瞬間、「自分は価値を提供できる」「自分のスキルは人の役に立つ」という確信が生まれます。この確信こそが、その後の起業活動を支える原動力になります。
特にADHD当事者は自己肯定感が低い傾向があります。会社で評価されなかった経験から、「自分はダメな人間だ」と思い込んでいる方も少なくありません。しかし、ファーストキャッシュを得ることで、その思い込みが崩れます。
また、ファーストキャッシュまでの期間が長すぎると、途中で諦めてしまうリスクが高まります。1年間何の収入もなければ「やっぱり自分には無理なんだ」と考えてしまうのは当然です。だからこそ、できるだけ早く、最低でも1年以内にファーストキャッシュを得ることを目標にすべきです。
金額は関係ありません。数千円でも構いません。重要なのは、自分の力で稼いだという事実です。その成功体験が、次のステップへの自信になります。
オンラインマーケティングの可能性
場所を選ばずに働きたいというADHD当事者にとって、オンラインマーケティングは理想的な手段です。自分の好きな場所で、自分のペースで仕事ができます。
オンライン上では、信頼を得ることが特に重要になります。顔が見えない相手に商品やサービスを買ってもらうためには、価値のある情報を提供し続け、実績を示し、お客様の声を集めることが必要です。
高額商品を販売することも、オンラインでは十分可能です。例えば、3人に24万円の商品を販売すれば72万円になります。100人に安い商品を売るよりも、少数の人に高額商品を販売する方が、ADHD当事者にとっては管理しやすく、効率的です。
サポート体制の重要性
一人で起業すると、つまずいたときに誰にも相談できず、挫折してしまうことがあります。特にADHD当事者は、指示されたことをそのまま実行するのが苦手な場合も多く、ちょっとした壁にぶつかると止まってしまいがちです。
そのため、相談できる環境、サポートを受けられる体制があることは非常に重要です。オンラインでのサポート、個別コンサルティング、グループでの交流など、さまざまな形でサポートを受けられる仕組みがあると、継続しやすくなります。
まとめ:自分らしく生きる選択
ADHD当事者にとって、日本の会社組織で働くことは必ずしも最適な選択ではありません。起業という道を選ぶこと、さらには海外での起業や生活を視野に入れることで、これまでとは全く違う人生が開ける可能性があります。
オーストラリアの事例が示すように、環境を変えることで、日本では「障害」と見なされていた特性が、「個性」として受け入れられ、むしろ強みになることもあります。
重要なのは、自分に合った環境を見つけ、自分らしく生きる選択をすることです。それが日本での起業であれ、海外での新しい生活であれ、ADHD当事者には多くの可能性があります。
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